アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す皮膚の病気です。
診断基準はいくつかありますが、①かゆみを伴い、②特徴的な湿疹が年齢ごとの特徴的な場所に、③長期にわたって繰り返し出る(乳児では2ヶ月以上、幼児からは6ヶ月以上)という3つの条件を満たすとアトピー性皮膚炎と診断されます。

アトピー性皮膚炎の症状には、皮膚のバリア機能の低下とアレルギー体質が深く関わっています。アトピー性皮膚炎の患者さんでは以下のような悪循環が起こります(イッチ・スクラッチ・サイクルと言います)。

アトピー性皮膚炎の治療や生活上の注意は、このイッチ・スクラッチ・サイクルを断ち切ることを目指します。
治療はステロイドなどの炎症を抑える軟膏や保湿剤ですが、それ以外にも皮膚への刺激を避ける生活上の注意、皮膚のかゆみを抑える抗ヒスタミン薬、重症例では注射や飲み薬などを使用します。

ステロイド軟膏は炎症を抑える役割を果たす中心的な薬剤です。

ステロイド軟膏の種類

ステロイドの強さ名称
最強(Strongest, I群)・デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル)
・ダイアコート(ジフロラゾン酢酸エステル)
とても強い (Very strong, Ⅱ群)・アンテベート(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)
・マイザー(ジフルプレドナート)
・ネリゾナ(ジフルコルトロン吉草酸エステル)
強い (Strong, Ⅲ群)・メサデルム(デキサメタゾンプロピオン酸エステル)
・リンデロンV(ベタメタゾン吉草酸エステル)
中くらい (Medium, Ⅳ群)・ロコイド(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)
・アルメタ(アルクロメタゾンプロピオン酸エステル)
・リドメックス(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)
・キンダベート(クロベタゾン酪酸エステル)
弱い(Weak, Ⅴ群)・プレドニゾロン

ステロイド軟膏は炎症を抑える効果が他の軟膏に比して強いことが多いですが、ステロイド軟膏の中でも強さに序列があります。効き目の副作用を勘案して、当院では湿疹の程度や部位別のステロイドの吸収率を考慮し、概ねⅣ群~Ⅱ群の強さの軟膏を使うことが多いです。

ステロイド軟膏の副作用

ステロイド軟膏は、強さ・塗る頻度・塗る場所によっては副作用が出ることがあります。
比較的多いのは、塗っている部分の皮膚が薄くなる、血管が透ける、毛が濃くなる、ニキビができる、などです。中止したら時間はかかりますがもとに戻ることが多いです。
また、目の周りに長期にわたって塗っていると、眼圧が上がる、白内障になるなどのリスクがあります。
最近では、卵アレルギーの予防方法を調べたPACI studyという研究では、乳児に予防的にステロイドを長期にわたって広範囲で塗り続けていて体重増加不良をきたしたことが報告されています。

ステロイド軟膏の部位別の吸収率

60年前の古い研究ですが、ステロイドは体の部位別に吸収率が異なることが報告されています。
前腕の内側を基準とすると、概ね四肢は0.14~1.1倍、背中が1.7倍、頭皮が3.5倍、下顎が13倍、陰部が42倍でした。皮膚が薄いところは吸収率が高いと考えられるので、顔や陰部周りにステロイド軟膏を長期にわたって塗り続けることには慎重になったほうが良いと考えます。

保湿剤

皮膚バリアを強化する目的で保湿剤は毎日塗布した方が良いでしょう。
当院ではヘパリン類似物質(先発品名ヒルドイド)をよく使用します。角質にも浸透する高い保湿力が売りですが、血行を良くするので皮膚が赤くなってしまう方もいます。そういう方にはプロペトを処方しています。
同じヘパリン類似物質でも保湿効果は、軟膏、クリーム>泡スプレー、ローション、スプレーとなっているので、乾燥の強い方には軟膏やクリームをおすすめしています。ただ伸びはスプレーやローション、スプレーの方が良いので、頭皮や夏場はこれらを使う方の方が多いでしょう。

その他の軟膏

コレクチム軟膏は2020年に販売された比較的新しい軟膏があります。これは炎症やかゆみに関わるJAK STAT回路のJAKという酵素を抑える効果があります。使用感としては、ステロイドに比べて炎症を抑える効果は弱いものの、ステロイド特有の副作用がないので長期の使用に適しています。当院ではしっかり湿疹が出た時にはステロイド軟膏、湿疹が繰り返しやすいところにはコレクチム軟膏を予防的に塗布することをおすすめしています。
他にもプロトピック軟膏、モイゼルト軟膏などを使うことがあります。プロトピック軟膏は顔のまずまずな湿疹に使いますが、ピリピリ感が出やすいデメリットがあります。モイゼルト軟膏はコレクチム軟膏同様、比較的新しい薬で、長期に安全に使いやすいことに加え、コレクチム軟膏と違って塗布範囲の決まりがありません。一方、光で分解する可能性があるため、保湿剤と混ぜての処方にはあまり適さず、チューブから出して塗ることが面倒というところがデメリットです。

軟膏の使用量

いくら体に合っている軟膏でも、十分な量を塗らないと効果は得られません。
一つの目安としては、「1FTUで大人の手のひら2枚分」という基準があります。

他にも体形にもよりますが、1回あたりに全身に塗る軟膏の量は、赤ちゃんでは全身で3-4 g、1,2歳で5 g、3-5歳で6-7 g, 6-10歳で8-9 g, 大人で14 gという目安もあります。例えば1歳の子で軟膏を200 g処方された場合、1日1回塗ったとして40日くらいで使い切る計算です。

ステロイド軟膏の減らし方(プロアクティブ療法)

アトピー性皮膚炎では、軟膏を塗って皮膚の調子が良くなってきても、「見た目はきれいだけど、目に見えない炎症が残っている状態」というものがあります。そのため、良くなったと思って軟膏をやめるとすぐぶり返すことが多いです。
プロアクティブ療法とは、徐々に塗る頻度を減らしていって、良い肌の状態を維持するのに必要十分な回数の軟膏塗布を継続していくことを言います。
実際には、例えば、軟膏を1日2回で塗り始め、良い状態になってから1週間は同じ頻度で継続し、1週間したら1日1回、また1週間したら2日に1回、また1週間したら4日に1回、また1週間したら週に1回、と減らしていく方法をとります。ステロイドを塗らない日は、保湿剤やコレクチム軟膏を塗ります。これでぶり返すようなら、概ねどれくらいの頻度でステロイド軟膏を使わなければならないかが見定められ、必要十分なステロイド塗布を続けられます。
なお、良くなったらすぐやめて、湿疹が出た時だけステロイドを塗る方法をリアクティブ療法と言います。軽いアトピー性皮膚炎や乳児湿疹ではこのような方法をとることもあります。

アトピー性皮膚炎は、皮膚への刺激で悪化します。具体的には、かく・こするなどの機械刺激、汗、日差し、化粧品、アレルゲンなどです。
対策として、
・機械刺激→爪は短くする、おしぶきを心がける、毛の処理をしない(カミソリなども皮膚刺激になるため)
・汗→夏場は朝シャワーを浴びる、汗をかいた後はすぐに汗を流す
・日差し→日除け止めを使う、直射日光に当たらないようにする(詳しくは「日焼け止め」のページ参照)
・化粧品→低刺激、アルコールフリー、パラベンフリー、パッチテスト済みなどを選択する
・アレルゲン→寝具や部屋をこまめに掃除する、ペットアレルギーなど分かっている場合は近づかない

などが有効です。
また、かゆくてかくと悪化するので、かゆみを抑えるために抗ヒスタミン薬などのかゆみ止めを使うことも有効です。

ステロイド軟膏による治療をきちんとしていても、コントロールの悪いアトピー性皮膚炎の患者では、注射薬や飲み薬が使われることもあります(オルミエント、サイバインコ、デュピクセント、ミチーガなど)。
ただ、これらは使用要件が厳しく、6カ月以上はstrong以上のステロイド軟膏を「適切に」半年以上続けてもアトピー性皮膚炎の調子が悪いという条件があります。適応がありそうであれば、当院の医師からご提案させて頂きます。

軟膏を塗ると良くなるけど、やめるとすぐ悪くなります

ステロイド軟膏を塗ることで見た目はきれいでも炎症が残っていることがあります。繰り返している場合はプロアクティブ療法を行います(上記「軟膏の塗り方」参照)。

軟膏を塗ってもよくなりません

多くの場合、
・塗る量が足りない
・薬の強さが不十分
・感染(とびひやヘルペスなど)が重なっている

などが原因です。評価のために受診をお勧めします。

アトピー性皮膚炎は予防できますか?

明確な予防方法は分かっていません。乳児期に保湿剤を一生懸命塗ったほうがアトピー性皮膚炎が増えたという報告もあります。保湿剤を塗る前に手が汚いことがリスクという説もあるので、軟膏を塗る前は手を洗うようにしましょう。

アトピー性皮膚炎の子は食生活を気を付けた方が良い?

一般的にはアトピー性皮膚炎のために特定の食べ物を避けることはお勧めされません。もちろん、これを食べると悪化する、というアトピー性皮膚炎の方もいますが、食べ物によっては除去することで栄養素が不足したり、アレルギーのリスクを高めたりする可能性が指摘されています。食べ物で悪化するアトピー性皮膚炎の患者さんでも、基本は上記のような軟膏・生活上の注意などです。

舌下免疫療法でアトピー性皮膚炎って悪化する?

ハウスダスト(主にダニが構成)に対する舌下免疫療法や経皮免疫療法でアトピー性皮膚炎が改善したという報告はいくつかあります。ただ、日本のアレルゲン免疫療法はダニやスギのアレルギー性鼻炎にしか適応がないという点に留意が必要です。

アトピー性皮膚炎はストレスで悪化しますか?

アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、ストレスの影響は大きいと考えられています。ストレスを軽減するために運動をすることがアトピー性皮膚炎に良かったという報告もあります。

アトピー性皮膚炎は治りますか?

治ったと思っても再発を繰り返すこともあるので、明確な数字は「治った」の定義や研究によっても変わりますが、8歳までに80%, 20歳までに95%以上が「治った」という報告があります。逆に20歳になってようやく半分くらいだけが「治った」という報告もあります。
ただ、大人に持ちこしても、薬フリーとまではいかずとも適切に管理すれば、いい皮膚の状態を維持できる割合はもっと高いと考えます。